強力道円さんの伝説
ある夏のかんかん照りの日のことでした。道円さんは、吉ヶ浦の堤の土手の草刈にでかけました。 せっせと草をかりおえて帰りかかろうとしますと、吉ヶ浦の堤から一匹の大蛇がでてきて道円さんの通り道をふさいで、どうしても通そうとしません。道円さんは、なんとか通ろうと、「シッ、シッ!」と、追っぱらおうとしますがその大蛇、なかなか、しぶとく、てこでも動こうとしません。
そこで怒った道円さんは腰に刺していた草刈鎌で、その大蛇を叩き切ってしまいました。
家に帰った道円さんは殺した大蛇のことが頭から消えませんので、思い切って、本吉の清水寺に参り身を清め、三七、二十一日間の願をかけてお寺に篭りました。調度満願の日、お寺の前に山から流れてくる谷水で手拭をぬらし顔や体をふき取り、ぬれた手拭をしぼりますと、その手拭が真二つに切れてしまいました。驚いたのは道円さん、「どうしてこんなに俺は、力が強くなったんじゃろうか、これはきっと仏様を一生懸命おがんだ仏様のご利益に違いない。」と思い村へ帰りました。
そして、村の男達と力較べをしてみることにしました。そこで道円さんは村の男という男と相撲をとってみましたが、誰一人として勝つものがいません。そこで、二人でむかってくる相撲、つまり二人相手の相撲、三人相手、四人、五人相手の相撲とやってみましたが皆、ころりころりと負けてしまいます。二人相手の時は、四人力の力が出るし、三人相手の時は六人力の力、四人相手の時は八人力が出るといった、びっくりするような力持ちになりましたので、村の人は、道円さんのことを「向こう一番」というようになりました。
ある時、道円さんは稲荷山へ薪をとりに行き、担いで前のほうが見えないほど、沢山の薪を取りました。先が見えないので「どうしようかなあ」と、大きな石に腰を掛けて、煙草を一服吸って、じっと考えていましたところ「そうだ!この腰掛けている大きな石を前に下げ、薪を後ろにさげれば、わけはないわい。」と、思いました。そこで石を前に、薪を後ろに結び、荷なって家に持ち帰りました。これを見た村の人々の驚きようたらありません。
たちまち村中に「力持ち、強力道円さん」の名が、ぱっと広まりました。村中の人が寄り集まりまして、道円さんに、村の鎮守神、上内八幡宮にその大きな石をかかえて行ってもらうことに相談がきまり、お宮の境内におさめてもらいました。今もその大きな道円さんの石が、力石として上内八幡宮の境内においてあります。ずっと昔のお話です。
上内小学校創立百周年記念誌を一部手直、補足して掲載しました。